【 Tadさんとの想い出(リペア) 】
掲載日 2020-09-18
私とTadさんは約30年の親交があった。
たしか1987年頃に工房にお邪魔したのが最初だったと思う。
当時は私よりも関西のプロプレイヤーさん達の方が随分とTadさんの所へ行っておられてたくさんのTadキューを日本に持ち帰られたようで、Tadさんからはよくそのお話をして頂いた。
Tadさんの工房へ行った時にキューの修理をお願いしたことがある。
多分10回程かな?
その時に直接言われたことをここに書いてみる。
・革巻きは全部はがして持ってくること。
・他人がいらったキューはもうTadではない。だからそのいらった人に持って行って!!見たくもない。
(「いらった」とは、広島弁で『いじった、触った』という意味だそう)
・できれば塗りも全部はがして持ってきてほしい。
・他のメーカーのキューは絶対に触らない。
・ロゴの入れ直しはしないし、証明書も書かない。
etc...
私:他のメーカーのキューはやって貰えないのですか?
Tadさん:うん、そりゃそうだよ。作った本人に頼む、お願いするというのが当たり前だよね。今もその人は作ってるんでしょう?
私:じゃ、バラブシュカとかランボーとか…
Tadさん:イヤイヤ、ぼくはようせん。他の人のはどんなになってるかわからんし、時間のムダだよね。どこに持って行くかは買った人の責任。ウチではしない。
とにかく手間と時間のムダ、と取り合ってもらえなかった。
お客さんから改造されたTadCueの修理を頼まれたことがあり、
大阪の専務さんに頼んでも「イヤイヤ、ムリ!」。
だから無理を承知でLAのTadさんの工房までそのキューを持って行き、頭を下げてお願いしたこともあった。
わざわざ日本からたった1本のキューの修理を頼みに来られたTadさんに、イヤと言われたことは一度もない。あれほど他の人が触ったキューの修理はしない、と言っていたのにだ。
ありがたいことに、長いお付き合いの中でこうして結局10本程は修理して頂いた。
しかも革をはいで持って行ったことも、もちろん塗りをはがして持って行ったことも一度もなかったが、Tadさんはいつも優しく受け入れてくれた。
Tadさんは大変きっちりされていて、実は私はTadさんから直接キューを買ったことは一度もない。
TAD Cueの代理店がきちんとあったので、購入する時は必ずそこを通していた。それが私なりのTadさんへの敬意であり、礼儀である。
でもその代理店では修理を受け付けて貰えなかったから、自分でTadさんに頼んでいた、そういうこと。
誤解されないように言っておくが、もちろん修理品などを持ち込まずにただ工房に遊びに行き、Tadさんと食事に行ったりお話を聞かせてもらうだけのことも多かった。
その縁で私の住む仙台にも2度、3度と遊びに来てくださったり、六本木の店舗に顔を出して頂いたこともあった…、今でもよく覚えている。
さて、自分がキューを作るようになって約12年。
最近、様々なキューの修理を頼まれるようになってきた。
(ウチは修理屋さんではないのになぁ…)
(このメーカーは今も作っているのだから、そっちに頼むべきだと思うけどな…)
(△△△×××abcdefg……ムニャムニャ…)
内心そう思うことも、確かにないわけではありません。
でも、頼まれるということは、それだけ信頼され、必要とされているということ。
自分はキューメーカーである以前に一人のプレーヤーなのだから、頼む人の気持ちは心底理解できる。
先日シュレーガーのシャフト製作をお願いしたい、とご来店された方がいた。
もちろん「よろこんで!」とお受けする。
これもまた偽りのない本心である。
リングを合わせ、昔の材で作り、Bertと話したいろんなことを思い出しながら丁寧にサンディングをして仕上げた。
私にとってとても心地良い時間で、良い仕事ができたと思う。
修理にはもちろんお金のやり取りが発生する。
でも私が修理の依頼を受ける理由は、お金の為だけではないことは是非知っておいて頂きたい。
修理をしていて、もう2度とこの方のは触りたくないな、そう思うことがある。
お金を払っているのはこちらだ、だからこの要求をのめ、というのは自分の肌に合わない。
カスタムテーパーのシャフト?そんなの自分で材を買って削ってみるといい、どれ程大変なことかきっと実感できるだろうから。
値段の高い安いではなくて、修理にはきちんとした知識と技術はもちろん、大変多くの時間がとられるということをきちんと理解して頂きたい。
ご自身のキューに対して理想やご希望があるのは当然わかるし、こちらにも聞く耳はもちろんある。
だけど、こちらの知識や経験からのアドバイスを完全に無視され、一方的に、半ば強引に希望を通そうとする姿には自分は違和感があり、キューがとてもかわいそうに感じる。
自分の性格上、間に合わせのコンビニ感覚のリペアはできないタチなのだろうなと思う。
カスタムキューのオリジナルの良さ、雰囲気をなるべく残し(または蘇らせ)ながら、そして作者の思いや理想にリスペクトを忘れずに丁寧な修理をしたいと私は心から願っている。
本来、カスタムの修理とはそうあるべきではないか、と。
そんなことを考えたりするが、とてもありがたいことに現実的には今はキュー作りに忙しく、リペアをする時間的余裕がない日々を送っている。
こうして書いてみると、
「あぁ、やっぱりTadさんのやり方は大正解!!」
そう思ってしまう、今日この頃、である。
合掌