【 カスタムキュー考2 】
掲載日 2017-02-02
今日はフィニッシュについて自分の考えを書いてみたい。
キュー作りにおいてフィニッシュとは最後のステップであり、一般的には仕上げの塗りを意味する。
ビリヤードのキューを塗ったことのある人は日本でもたくさんおいでだろうし、塗装は誰でもできると思うのは間違ってはいない。
簡単に手を出せると思ってしまうのは、全国にホームセンターがあり、塗料はすぐに手に入るのも大きな理由だろう。自動車の塗装などをかじったことのある人もたくさんいるから手を出しやすいよネ。
塗装に一家言お持ちの方は大変多いのではなかろうかと思う次第である。
フロリダのエーブリッチの天然素材を手にするまでは一度も機械を触ったこともなかった自分にとって、キューの塗装は、キュー作りの中で一番手間取ったステップである。
それまでには色々なメーカー達のやり方を見てきたけれど、見るとするとは大違い。なかなかうまくいかない。
今でも勉強中であることは記しておく。
自分が目指している塗りとは、薄くてクリアなこと。なおかつ柔らかいのが最上と固く信じている。
この辺りは意見を異にする人もおいでだろうから、なぜ私がそう思うかを記してみよう。本邦初公開!!だネ。
木工品においての塗りは第一に“保護膜”の意味。
どんな木工品でも良い状態を長く保たせるという目的で塗装されている。
何からの保護かというと、もちろん湿度(水分)だよネ。
曲がり、反り、ねじれが木工品は出やすい。そしてその原因は長い歴史の中では水分(吸湿)であると推察され、木材をじっくり寝かせて乾燥させて加工するということを学んだ訳である。少し削っては寝かせ、落ち着いたらまた少し削るという繰り返しで手間がかかるが、物作りとはそんなものだ。
しかしそれでも狂いが出る。そしてその原因が吸湿であるということを理解し、それを抑えるために仕上げした後の吸湿の防止と美観を保つため油分を表面に塗ることを覚えたのだろう。
もうひとつ忘れがちなことがある。木工芸品、室内装飾品を守る上で無視できないのが“紫外線”である。
太陽光のあたる所に置いていた物は早く傷み、どうやら退色も進むようだということも長い間の経験で学んだのだ。
木工品の水分と紫外線からの保護膜としての塗装というのであれば話は簡単だ。
21世紀の現代ならば、ネットにたくさんの知識があるので誰でも塗れる。通り一遍の作業は誰でも可能なのだ。
では、私はなぜ薄くてクリアなもの、塗りが柔らかい物を求めるのか。
自分では作ったものはキューであるので、道具、球撞きの道具である。
作る側としては道具は使用者にとって長く持っていて嬉しい物でありたい、と願っている。
工芸品とはとても自分では呼べないが、そちらの方に少しでも近づきたいと心から思っている。できるだけ長い期間美しくありたいのだ。
となると、工芸品の塗りを見て学ぶしかない。
どんな木工品も優れた作品の塗りはクリアである。
クリアであるということをつきつめると、塗りは薄い。間違いない。
塗っては磨いて、塗っては磨いてという工程を何度も何度も繰り返してある訳である。
こうして薄く塗り重ねられたものは経年劣化が少ない。薄いので素材の振動も殺さない。
自分が今良いと感じているのは、大体0.07mm程かな。0.1mmはコピー用紙1枚と同じ厚さでその2/3程がベストかなと思う。
日本では自称キューメーカーという人達は1mm程を塗って“どうだ!”とやっているが、私の目からは曇りが多くて目を背けたくなる。きっと「硬度を増すために厚く塗っている。」などというのだろうが、キューの硬度は素材の強さと接続方法でコントロールされるべきであり、経年変化の大きい塗装では硬度のコントロールはすべきではない。
では、塗装膜の硬いのと軟らかいのではどちらが良いかという事を考えてみよう。
これは製作者の好みなのかもしれないが、キューは道具である。だからぶつけたりすることはよくある話であると思う。硬い塗りはぶつけた時に割れたりヒビが入ったりではがれやすい。軟らかい塗りは打撲に強く、はがれにくい。普通にぶつけてもへこむだけである。
私が透明度の高い薄くて軟らかいフィニッシュが好きな理由である。